高槻市教育委員会が平成12(2000)年4月に策定した「高槻市人権教育推進プラン」(抜粋)
在日外国人教育の推進
1 在日外国人教育をめぐる状況
日本社会は独自の文化を持つ沖縄やアイヌの人たちだけでなく、歴史的な経緯を持つ在日韓国・朝鮮人が多く定住しています。また、昭和47(1972)年の日中国交正常化や平成2(1990)年の「出入国管理法及び難民認定法」改正により、中国からの帰国者やアジア、ブラジルなどから渡日している外国人が増えてきています。このように日本は多様な民族と文化が存在する社会であり、また国際化が急速に進展しています。
高槻市には現在、40数カ国約3000名(平成12年2月現在)の外国籍の市民が生活しています。その中には韓国・朝鮮籍の人が多数を占めていますが、それは明治43(1910)年の韓国併合とその後の皇民化政策、創氏改名、土地調査事業等の植民地支配によって急速に増え、昭和20(1945)年の第二次世界大戦後も十分な保障がないために帰国できず、日本に定住せざるをえなくなった人たちが多くいるからです。韓国・朝鮮籍市民として、日本で生活する権利は当然保障されるべきですが、政治的にも社会的にも権利が制限されていたり、結婚や就職など様々な面において深刻な偏見や民族差別があるなど、多くの課題を残しています。
高槻市の在日外国人教育は、昭和42(1967)年に第六中学校で、厳しい差別や生活実態のために生じている生活の荒れと低学力を克服する取り組みとして始まりました。そして、学校内に「在日韓国・朝鮮人子ども会」を設置し、その活動を通して韓国・朝鮮人生徒の民族的自覚と誇りを高めてきました。また、日本人生徒が共に学ぶことを通して偏見や差別意識をなくし、豊かな人権意識を育てる取り組みとなり、在日韓国・朝鮮人教育として、全市的に広がりました。
一方、社会教育分野では、在日韓国・朝鮮人青年たちの手によって、昭和47(1972)年から在日韓国・朝鮮人多住地域で地域子ども会、高校生の会、日本語識字教室(アジメ学校)、各種啓発活動の取り組みが始まりました。昭和57(1982)年には、「在日韓国・朝鮮人問題取り組みについての教育基本方針」を策定し、昭和60(1985)年からは社会教育分野での活動を充実させるために在日韓国・朝鮮人教育事業を始めました。
しかし、戦後半世紀が過ぎ、在日韓国・朝鮮人教育の課題も変化しており、祖国とのつながりがなくなっている家庭や新たに渡日した家庭、日本人との結婚で複数の文化を持つ児童生徒など、置かれている立場や意識、考え方は多様化しています。このような中では、民族としての自覚と誇りを持つことのみにとらわれるのではなく、在日韓国・朝鮮人の子どもたちが、自分自身を多文化共生の社会を切り拓く存在として肯定的に捉え、自らの進路を切り拓き自己実現をめざす力を身につけていくことも重要です。こうした重要性から、在日韓国・朝鮮人教育を多文化共生教育として発展させていく必要があります。
一方、中国からの帰国者や渡日外国人にとっては、まず日本での生活に適応することが重要な課題になっています。日本語の習得をはじめ、日本の文化や習慣、生活様式を理解することは、日本で生活していく上で不可欠です。
渡日外国人児童生徒の教育のために、平成4(1992)年からの加配教員が配置され、日本語教育が始まりましたが、日本語の習得の中で「生活言語」の獲得は比較的短期間にできるものの、日本語における抽象的思考に必要な「思考言語」の習得は非常に難しく、生きる学力をつけるためには継続的な支援が必要です。
また、日本語の習得にともなって母語を忘れていく傾向があります。そのため日本語習得の困難な保護者との間でコミュニケーションがとれにくくなり、日本での生活になかなか適応できない保護者を否定的にとらえるなど、外国人児童生徒のアイデンティティ確立の上で課題が生じています。外国人児童生徒が自らの存在を肯定的にとらえながら日本社会の中で自己実現をめざしていけるよう、保護者・家庭と連携して取り組みを進める必要があります。
在日韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人に対する偏見や差別意識は、依然として厳しいものがあります。在日韓国・朝鮮人問題、在日外国人問題についての正しい理解と互いを尊重し合い共生していく姿勢を培うため、人権教育と啓発を充実させ、偏見や差別をなくしていかなければなりません。
外国籍市民との交流や異文化とのふれあいを通して、日本人市民も視野を広げ、日本人と外国人の双方の豊かさを育み、人権意識を高めることができます。在日外国人教育を充実させることにより、豊かな人間性や社会性を基盤とした人権意識と、国際社会に生きる人としての国際理解を深め、多文化共生の社会づくりを進めます。
以上の考えに基づいて、在日外国人教育を推進していくため、これまでの実績と手法を生かし、在日韓国・朝鮮人教育事業を、多文化共生教育の視点に立って、21世紀に対応できる在日外国人教育事業として発展させるよう努めます。また、学校教育分野と社会教育分野の連携を深め、在日外国人教育を総合的な視点から推進していきます。
1 教育推進の方向性
(1)学校教育分野の課題と取り組み
〜豊かな人権意識を持つ国際人の育成をめざして〜
@教育を受ける権利の保障
ア 国籍等にかかわらず、すべての児童生徒の教育権を保障し、確かな学力と、たくましく「生きる力」を育む教育を推進します。
イ 国籍等にかかわらず、すべての児童生徒が自らの存在を肯定的に捉え、個性を伸長し豊かな自己実現をめざすことができる学習や活動を展開します。
ウ 在日韓国・朝鮮人や渡日外国人などマイノリティ(少数の立場の人)の文化を尊重し、違いを認め互いに学び合う意識や態度を養う多文化共生の集団づくりを推進します。
エ すべての学校園で教職員が民族差別の実態や生活の厳しさを認識し、在日外国人児童生徒の生活や学力の実態をふまえた教育の推進に努めます。
オ 在日外国人児童生徒が多く在籍する学校では、保護者との連携を深めながら、民族的な文化や歴史にふれる機会を多く設け、立場の理解や自覚によりアイデンティティを確立できるように支援に努めます。
A在日韓国・朝鮮人教育の推進
ア 在日韓国・朝鮮人が置かれてきた歴史的・社会的経緯を理解する学習を進め、差別や偏見をなくし互いに尊重し合うスキルと態度を培う教育を推進します。
イ 学校子ども会設置校は、在日韓国・朝鮮人児童生徒が自らの存在を肯定的に捉え、豊かな自己実現をめざすことができる学習や活動を展開します。そのために保護者や在日韓国・朝鮮人地域子ども会(以下「地域子ども会」)活動との連携を深めます。また、地域性をふまえた中学校ブロックでの活動を推進します。
B渡日外国人児童生徒や複数の文化を受け継いでいる児童生徒の教育の推進
ア 渡日外国人児童生徒や複数の文化を受け継ぐ児童生徒に対して、立場を自覚しアイデンティティを確立するために、母語や母国の歴史・文化の学習を支援します。
イ 日本語の読み書きが十分でない児童生徒に対して、日本語の学習を支援するとともに、母語や母文化を尊重しながら学力の向上に努めます。
C多文化共生教育の推進
ア すべての児童生徒に、在日外国人とのふれあいや交流を通して国際理解を深める教育を推進します。また、異文化との出会いを通して異なる文化を尊重する態度を培うとともに、日本の文化や風習を再認識できるような教育を推進します。そして、多文化共生の社会づくりを担う豊かな人権意識を持った人材の育成に努めます。
イ 文化活動や交流活動を積極的に支援します。また、在日外国人同士の横のつながりや異文化との交流を促進するための活動を支援します。
(2)社会教育分野の課題と取り組み
〜多文化共生の地域社会づくりをめざして〜
@多文化共生社会づくりの推進
ア 国籍等にかかわらず、すべての人の人権が保障され、安心して暮らせる地域社会づくりに努めます。
イ 外国籍市民の教育やニーズに対応できるよう、教育情報の提供に努めます。
ウ 外国籍市民の意見や要望を教育施策に反映できるよう、意見交換の場と設定に努めます。
エ 生涯教育の視点に立って、外国籍市民が生活文化の向上を図るための自主活動や積極的な社会参加を支援します。
A児童生徒の活動への支援
ア 在日韓国・朝鮮人としての立場の自覚とアイデンティティの確立等を目的に活動する「地域子ども会」活動の充実と発展を図ります。
イ 多文化共生の視点から新たに渡日してきた外国人児童生徒や保護者の交流活動を支援します。
ウ 在日韓国・朝鮮人児童生徒、渡日外国人児童生徒、日本人児童生徒が集い交流できる場の提供に努めます。
B啓発活動の推進
ア 在日韓国・朝鮮人が置かれてきた歴史的・社会的経緯を理解し、偏見や差別意識をなくし互いに尊重し合うスキルと態度を培うための啓発に努めます。
イ 在日外国人に対する偏見や差別意識をなくすため、在日外国人の人権問題についての啓発活動を進めます。
ウ 日本人市民と外国人市民が互いを理解し、豊かなつながりを築くための各種啓発交流事業を進めます。