(資料1  高槻市教育委員会内部で作成した提言)

在日外国人教育の今後の在り方について(提言)

平成13(2001年)年9月4日

高槻市多文化共生・国際理解教育事業検討委員会

在日外国人教育の今後の在り方について

− 検討委員会提言 −

は じ め に

 昭和42(1967)年、高槻市教育委員会は学校教育分野で、在日韓国・朝鮮人児童生徒のきびしい生活・低学力実態をふまえ、その克服にむけて「在日韓国・朝鮮人子ども会」を設置し、学校の主体的な取り組みを通して、民族的自覚と誇りを持たせる活動や学力向上のための支援を行ってきた。

 一方、昭和47(1972)年には、在日韓国・朝鮮人の青年を中心とした「むくげの会」が、民族差別の解消や生活改善にむけた活動を始め、昭和53(1978)年には成合地区において、地域子ども会活動を実施したり、在日一世を対象にした日本語の識字教室等に取り組んできた。

 このような中で、国内における外国人政策も、昭和54(1979)年から昭和57(1982)年にかけて、国際人権規約の批准や難民条約への加入など大きな転機を迎えた。

 それらを受けて、高槻市教育委員会では、昭和57(1982)年には「在日韓国・朝鮮人問題取り組みについての教育基本方針」(以下「教育基本方針」)を策定し、また昭和60(1985)年には学校教育・社会教育を一元化した事業として「在日韓国・朝鮮人教育事業」に取り組み15年余が経過した。

 その間、在日外国人の状況も多民族化が進行するなど大きく変化してきている。21世紀を迎えた現在、在日外国人にかかわる施策は、今までの在日韓国・朝鮮人のみを対象とした取り組みから、広く日本人の「内なる国際化(注釈1)」にむけた施策や、新たに渡日してきた在日外国人をも対象にした施策に転換していくことが求められている。

 多文化共生・国際理解教育事業検討委員会(以下「検討委員会」という)では、こうした時代と社会のニーズに対応すべく、教育事業の見直しを行い、第四次高槻市総合計画の「多文化共生(注釈2)の社会づくり」を進める事が大切であると考える。そのために、国籍や民族の違いを越えて、異なる文化や生活習慣、価値観を互いに理解し合い在日外国人が地域の一員として暮らしやすいまちづくりにむけて以下のような提言を行うものである。

・(注釈1−内なる国際化)日本国内で異文化と接して日本人自身が国際化にむけて自己変革していく課題。

・(注釈2−多文化共生)異質な集団に属する人々が、互いの文化的差異を尊重しながら対等な関係性を構築する課程を言う。

 

1 基本的認識

 

(1)在日外国人の現状と課題

 昭和55(1980)年を前後として、在日外国人の状祝に大きな変化が生じている。昭和54(1979)年の国際人権規約の批准、昭和55(1980)年の日中国交正常化、さらには昭和56(1981)年の難民条約への加入および出入国管理法及び難民認定法の改正等、日本における外国人施策が大きく転換期を迎えた。こうした中、中国からの帰国者やその家族および、就労や結婚等で日本社会に定住する外国人の増加により、地域社会では、生活習慣の違いからくる地域住民との軋轢や、学校では言葉の問題など、生活文化等の違いによる新たな課題が生じて来ている。

 高槻市においても平成2(1990)年以降、外国人登録者数に占める在日韓国・朝鮮人(1877人)の比率<昭和50(1975)年86%→平成13(2001)年6月末65.7%>は減少し続ける一方、中国人(553人)を始めとしてブラジル人(78人)フィリピン人(74人)(平成13年6月末現在・高槻市外国人登録国籍別人員表より)等、アジアや南米を中心とした外国籍市民が増加の傾向にある。さらに日本国籍ではあるが外国に深い繋がりを持つ市民も増加の傾向にある。すなわち国際結婚から生まれた子どもも、国籍法の改正により両親の一方が日本人であれば出生時に日本国籍を取得するケースや、「帰化」という手段で日本国籍を取得するなど、こうした人々の存在も日本社会における多文化共生社会を考えるにあたっての重要な視点としてとらえておく必要がある。このような状況は、日本全国の状況とほぼ一致していることからも、今後日本社会における外国出身者の構成比率は高まる傾向にあると考えられ、外国人に対する正しい認識を深めることが大切である。今後は多民族社会を想定した新たな時代認識と発想の転換の上にたった事業の展開が求められている。

 

(2)在日韓国・朝鮮人の現状と課題

 

 高槻市においては、教育現場での在日韓国・朝鮮人児童生徒の実態に基づき市としての教育的配慮の観点から昭和57(1982)年の「教育基本方針」の策定後、昭和60(1985)年8月から在日韓国・朝鮮人教育事業を発足させるとともに、同年9月に「在日韓国・朝鮮人教育事業運営委員会要綱」を策定し、各事業内容の実施要項に沿って、学校子ども会ならびに地域子ども会活動を中心に、韓国・朝鮮人への差別の実態や過去の歴史認識を中心に事業を展開してきた。こうした取り組みと在日韓国・朝鮮人自らの努力も相まって、在日韓国・朝鮮人の子どもたちにとって民族的な誇りを持つとともに、進路を切り開き自己実現をめざす力もつけてきた。また、日本人にとっても正しい在日韓国・朝鮮人問題への理解を広げる効果も上げてきた。

 そのため、今後は在日外国人全般を視野に入れた多文化共生の社会づくりにむけた課題の整理とともに、その解決にむけた取り組みが求められている。

 

2 今後の方向性

 

 在日韓国・朝鮮人教育事業は昭和55(1980)年を前後として社会状況の変化や学校現場における児童生徒の実態に対応して生まれてきた事業であり特定の児童・生徒を対象に実施するとともに、任意団体としての「むくげの会」が自主的に活動してきた取り組みを行政が引継いできたという経緯もあり、特別対策的な意味合いが強かったのが実態である。

 本市においては、平成11(1999)年3月には「人権教育のための国連10年高槻市行動計画」を策定し、21世紀の人権施策にかかわる方向性を示した。

 さらに同年9月には、人権教育関係の方針を一本化したものとして「高槻市人権教育基本方針」並びに、平成12(2000)年4月には「高槻市人権教育推進プラン−在日外国人教育の推進−」を策定した。

 また、平成13(2001)年1月には、多文化共生の社会づくりを盛り込んだ「第四次高槻市総合計画」を策定し、スタートしているところであり、今後は、従来の在日韓国・朝鮮人教育事業を抜本的に見直していくことが必要である。

 よって、在日韓国・朝鮮人教育事業の運営について審議するために策定した「在日韓国・朝鮮人教育事業運営委員会要綱」(平成13年度より「多文化共生・国際理解教育事業運営委員会要綱」に名称変更)及び、各実施事業の要綱については、次に提案している各事業の見直しに伴い廃止していくことが望ましい。

 

(1)子ども会活動

 

 在日外国人児童・生徒をとりまく状況は、多民族化という新たな傾向の中、これからの在日外国人教育は、豊かな人権意識と多文化共生の教育を基盤に捉える必要がある。つまり、平成14(2002)年度から実施される「総合的な学習」の時間や「道徳」の時間等、学校教育全般を通した取り組みを展開し全ての小・中学校で多文化共生・国際理解教育を実施していくことが求められている。したがって、現在のような8校に限定した学校子ども会活動ヘの行政的支援は廃止することが望ましい。

 また、地域での活動として実施してきた地域子ども会や高校生の会の活動は参加している児童・生徒の減少により活動そのものが成立しにくい実態が出てきている。更には在日韓国・朝鮮人生徒の高校進学率の向上や在日韓国・朝鮮人のアイデンティティの確立等、一定の成果をあげてきたことから、今後は多文化共生の社会づくりにむけた新たな事業展開に移行していくことが求められている。したがって、地域子ども会活動等への行政的支援は廃止することが望ましい。

 

(2)日本語識字教室(アジメ学校)(注釈3)

 

 在日韓国・朝鮮人一世を対象に実施している日本語読み書き教室は、取り組みを始めて20数年が経過し、当初の目的であった日本語(文字)習得の役割も果たしてきた。現在では受講生の高齢化が進み、当初の文字を習得するといった目的から、受講生(アジメ)とボラジティアとの交流の場になっていたり受講生にとっての憩いの場になっている面もある。よって、在日韓国・朝鮮人一世を対象にしてきた日本語識字教室は、行政的支援の役割を終えていくことが望ましい。

・(注釈3−アジメ)韓国語で「おばさん」という意味。

 

(3)交流啓発活動

 

 現在、学校教育分野では、在日外国人児童生徒同士の交流や日本人児童生徒との交流活動として様々な年間行事を実施している。毎年7月に実施している「ハギハッキョ(注釈4)をはじめ3月の「小学6年生の集い」更に「中学3年生の集い」といった、在日韓国・朝鮮人児童生徒を対象にスタートした活動がある。また、広く多国籍の児童生徒を含む市内全ての子どもたちを対象とした活動としては4月の「春の交流会」をはじめ8月の「オリニキャンプ(注釈5)11月の「歌と踊りの集い」、2月の「在日外国人子どもまつり」の実施等、多種多様な活動を展開している。

 今後はこうした交流行事は、多文化共生・国際理解の視点にたち、広く日本人と外国人との交流・啓発を目的とした行事内容に整理、移行する。

 第四次高槻市総合計画には、「外国語による日常生活関連情報の提供を行うなど、外国人市民が地域の一員として暮らしやすいまちづくりを進める」ことや「国籍や民族の違いを越えて、異なる文化や生活習慣、価値観を互いに理解し合う日常的な交流の場づくりを支援する」ことによって、多文化共生の社会づくりをめざすことが明記されている。したがって、今後は行政の役割を明確にするとともに、自主的・自発的活動をはじめとした民間の活力の導入を図りながら交流・啓発に努めていく必要がある。

・(注釈4)−「ハギ」は夏、「ハッキョ」は宿泊の行事という意味。

・(注釈5)−「オリニ」は韓国語で「子ども」という意味。

 

 お わ り に

 

 昭和42(1967)年以来、地域や学校現場で取り組まれてきた在日韓国・朝鮮人を中心とした在日外国人の課題は、様々な人々のかかわりと努力の中から民族的自覚と誇りや学力の向上並びに交流・啓発事業に大きな成果を残してきた。

 しかしながら、21世紀を迎え、着実に進行する国際化を念頭において、日本人と外国人とが互いの違いを認め合う取り組み、いわゆる多文化共生の社会づくりが必要となってきている。

 そこで、検討委員会では、こうした時代の要請に基づき高槻市における在日外国人教育にかかわる様々な取り組みの現状を把握し、課題を整理する中で、今後の方向性について論議を重ねてきた結果、前述のような提言を行うものである。